トレイルランニングでは、どういった補給戦略が重要なのでしょうか。
ジェルは何本必要なのか。固形食は食べた方がいいのか。そして、どのタイミングで補給するのがいいのか。
距離が長くなるほど、こうした補給について悩む人は多いと思います。
私自身、以前はレース時間から消費カロリーを計算し、それに合わせて補給食の数を決める方法も取り入れていました。しかし、マラソンやさまざまな距離のトレイルレースを経験する中で、現在は少し考え方が変わっています。
トレイルランニングの補給で重要なのは、単純に「ジェルを何個持つ」と決めることではありません。
・どのくらい補給するのか
・補給をいつ行うのか
・ジェルと固形食のどちらを選ぶのか
さらにトレイルの場合は、
・これから登りが始まるのか
・走りやすい区間なのか
・次のエイドまでどのくらい時間がかかるのか
によっても補給方法が変わります。
この記事では、私自身がマラソンとトレイルランニングの両方に取り組んできた経験をもとに、現在考えているトレイルランニングの補給について詳しく解説していきます。
| 著者:千坂 充宏(SAMURAIGEL開発者) マラソンと並行してトレイルランニングに取り組み、ショートからロングレースまで幅広く出場しています。 主なレース実績 ・比叡山インターナショナルトレイルラン 50mile 6位 ・富士登山競走 山頂コース 3時間21分 ・各務原アルプストレイルランニングレース 優勝 ・別府大分毎日マラソン 2時間46分48秒 YouTube|マウンテンランニング研究所 |
トレイルランニングの補給量はどう考える?
トレイルランニングは長時間身体を動かし続ける競技です。
30km程度でもコースによっては数時間かかりますし、50km、100kmと距離が伸びれば、半日以上動き続けることもあります。
当然ながら、その間に何も補給せず走り続けることは難しくなります。
特に重要になるのが血糖値や自律神経に関わる糖質です。
身体には糖質をグリコーゲンとして蓄えることができますが、その量には約2500kcal~3000kcalと限界があります。
そのため、長時間の運動ではレース中にも外部から補給することで血糖値を安定させてエネルギー源(グリコーゲンや体脂肪など)を使えるようにする必要があります。
以前の私は、METsなどからレース全体の消費カロリーを計算し、そこから必要な補給食を考える方法も取り入れていました。
もちろん、レースでどのくらいエネルギーを消費するのかを把握する一つの目安にはなります。
しかし現在は、レース全体で何kcal消費するかよりも
「1時間あたりにどのくらい補給できるか」
という考え方を重視しています。

長時間の持久系運動では、1時間あたり30~60g程度の糖質摂取が一つの目安になります。さらに長時間かつ高強度の運動では、それ以上のエネルギー利用ができる状態が求められることもあります。
ただし、ここで「1時間にジェルを○本飲めばいい」と考える必要はありません。
ジェルから糖質を摂ることもあれば、スポーツドリンクから摂ることもあります。トレイルであれば、エイドのバナナ、おにぎり、パンなどから糖質を摂ることもできます。
つまり、
ジェル+ドリンク+固形食+エイド食
これらをすべて合わせて考えればいいということです。
また、糖質は多く摂れば必ずいいというものでもありません。自分の胃腸が処理できる量を超えてしまえば、気持ち悪くなったり、その後の補給ができなくなったりする可能性があります。
そのため、レース本番だけでなく普段のロング走やトレイル練習でも補給を行い、自分が1時間あたりどの程度なら問題なく摂り続けられるのかを確認しておくことが重要です。
特に「具体的にどんな補給食を選べばいいのか」という部分については、この記事ですべて紹介すると内容が重複してしまうので、別の記事にまとめています。
こちらでは、ジェル系だけでなく固形食やリアルフードなど、トレイルランニングで使いやすい補給食を具体的に紹介しています。
マラソンとトレイルでは補給方法が異なる
私はマラソンとトレイルランニングの両方に取り組んでいますが、補給方法については異なると感じています。
この違いについてはYouTubeでも詳しく解説しています。文章より動画で見たい方はこちらをご覧ください。
▼マラソンとトレイルランニングの補給は何が違う?
私の場合、マラソンでは基本的にジェル中心です。
マラソンは、自分が維持できるかなり高い強度で42.195kmを走り続けます。
運動強度が高くなれば骨格筋への血流需要も大きくなりますし、走っている間は上下動も続きます。
そのため、レース後半になってくるとジェルすら飲みたくなくなることがあります。
その状態でおにぎりやパンなどの固形物を食べるのは、少なくとも私には難しいです。
だからマラソンでは、走りながら摂取しやすいジェルやスポーツドリンクを中心に補給を組み立てていますし、補給する距離やジェルの選び方や携帯性などを考える必要があります。
マラソン向けの補給食やエネルギージェルについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
また、「マラソンでは何km地点でジェルを摂ればいいのか」というタイミングについては、さらに別の記事にまとめています。
一方、ロングトレイルでは事情が変わります。
もちろん20km前後の短いトレイルレースや、最初から高い強度で進むレースであれば、私もジェル中心で走ります。
しかし50km、100kmと距離が伸びてくると、最初から最後までマラソンと同じような強度で走り続けることはできません。
登りでは歩くこともありますし、エイドでは立ち止まります。走れる林道ではペースを上げても、それ以外では比較的余裕のある強度で進む時間もあります。
この身体に余裕がある時間を補給に利用するというのが、私がマラソンとロングトレイルで補給方法を変えている大きな理由です。
特に長いトレイルでは、私はレース序盤から固形食を積極的に摂るようにしています。
後半になって食べられなくなる可能性があるからこそ、
身体も胃腸も元気なうちに食べておくという考え方です。
トレイルではジェルと固形食をどう使い分ける?
ロングトレイルでは固形食を食べると書きましたが、どんな場面でも固形食を優先しているわけではありません。
私が重要だと思っているのは、そのときの運動強度によって補給方法を変えることです。
例えば、トレイルランではスタート直後から急登が続くレースがあります。急な登りと下りを繰り返し、序盤から心拍数が高い状態が続くようなコースです。

こういうレースでは、無理に固形物を食べません。実際、強度の高い場面で固形物を食べて気持ち悪くなった経験もあります。
こうした場面ではジェルやドリンクを利用し、比較的身体に余裕が出てきたところで固形食を入れます。
逆に、林道など比較的余裕を持って進める区間やエイドでは、バナナ、おにぎり、パン、羊羹、エネルギーバー、うどんなどを利用します。
特に私が意識しているのが序盤です。
レース序盤はまだ元気なので、固形食を食べた効果をすぐに感じることはありません。しかし長時間レースでは、その後何時間も身体を動かすことになります。
後半になって「何か食べなければ」と思ったときには、すでに胃腸が疲れていて食べられないこともあります。
だから私は、トレイルランニングの補給では食べられるうちに食べておくことを大切にしています。
この「ジェルだけではなく、バナナやエイド食などのリアルフードも使う」という考え方については、過去の記事でも詳しく書いています。
そして、これは距離によっても変わります。
20~30km程度でスピードを求めるレースなら、ジェル中心でも十分対応しやすいと思います。
運動強度が高く、レース時間も比較的短いため、固形物を食べるメリットが小さくなるからです。
40~60kmくらいになれば、私はジェルと固形食を組み合わせることが多くなります。
さらに100km以上になれば、「何を食べるか」に加えて、長時間食べ続けられるかという視点が重要になります。
何時間も甘いジェルだけを摂り続けるのが難しい人もいるため、エイド食や塩気のあるものなども組み合わせていきます。
ただし、難しいのはトレランは距離だけで体の負担を判断することもできません。
同じ40kmでも、走れる林道が中心の40kmと、急登と急降下を繰り返す40kmでは身体への負担がまったく違います。
そのため私は、距離だけではなく、レース時間とコース強度まで含めてジェルと固形食を使い分けるようにしています。
ここで参考になるのが2026年に参加したロッキンベア妙高トレイルです。
このレースは48㎞という距離で比較的走れるコースだったのでジェルを中心にエイドの固形食も取る
ようにしていました。
かなり速い選手も参加していましたが結果的に総合12位(40代優勝)という結果となり、自分としては比較的うまく補給戦略がハマったレースだと言えます。
補給タイミングは高低図とエイドから考える
これは以前から私がトレイルレースで実践していて、現在でも非常に重要だと考えている方法です。
トレイルランニングでは、単純に「30分ごと」「1時間ごと」と時間だけで補給タイミングを決めると、うまくいかないことがあります。
例えば「あと30分で固形食を食べよう」と決めていたとして、
その30分後が急登の途中だったらどうでしょうか。
心拍数も呼吸数も上がっている中で固形食を食べることになります。これはあまり効率のいい補給方法ではありません。
そこで私は、レース前に高低図を確認します。
この先に長い登りがあるのであれば、その登りに入ってから食べるのではなく、登りに入る少し前の余裕がある区間で補給を済ませておく。
走りやすい林道があって、その後に大きな登りが待っているなら、林道区間を補給ポイントとして考えることもできます。
つまり「○分経ったから食べる」という時間軸だけではなく、この先のコースがどうなっているかという地形軸でも補給タイミングを考えるわけです。
私は以前から、レース前に高低図を確認して、エイドや登りなどの重要なポイントを書き込むようにしています。
トレイルレースで高低図をどう使っているのかについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。
この記事では、補給だけではなく、登りやエイドなどを含めたレース全体のマネジメントについて解説しています。
さらに重要なのがエイドです。
トレイルレースでは、大会によってエイドの間隔も内容も大きく異なります。

何km地点にエイドがあるのか。水だけなのか。スポーツドリンクや固形食があるのか。そして次のエイドまでどのくらい時間がかかりそうなのか。
ここまで事前に確認しておけば、自分で持つ補給食の量も変えられます。
例えば10km先に食べ物が豊富なエイドがあるなら、大量の固形食をスタートから持つ必要はありません。
一方、最初のエイドが水だけで、その次まで数時間かかるのであれば、自分で補給食を持っていく必要があります。
トレイルでは、
自分が持つ補給食+大会のエイドを合わせて一つの補給計画として考えることが大切です。
必要以上に補給食を持たなければ、ザックを軽くできるというメリットもあります。
ロングトレイルでは「食べ続けられること」も重要
ここからは科学的な結論というより、私自身が長いトレイルレースを走ってきて感じていることです。
長時間レースの途中で温かい味噌汁を飲んだり、バナナを食べたり、うどんを食べたりすると、
単純にカロリーを摂った以上に「回復した」と感じることがあります。
なぜそう感じるのかについては、私自身も断言できませんがおそらく自律神経によるものが大きいと思います。
咀嚼による刺激や温かいものを食べる安心感、あるいは長時間甘いものを摂り続けた中で味が変わることによる精神的なリフレッシュも自律神経を刺激する1つの要因です。
これまで比叡山インターナショナルトレイルランニングレースの50マイルやIZU TRAIL JOURNEYなど長いレースを経験するほど、私は「必要なエネルギー量を数字通り摂ること」だけが補給ではないと感じるようになりました。
・ジェルの甘さが嫌になったら塩気のあるものを食べる。
・固形物が厳しくなったらジェルに戻す。
・寒くなったらエイドで温かいものを飲む。
長丁場のレースになれば、補給は何時間も続きます。
だからこそ、「理論上もっとも効率のいい補給食」だけではなく、自分が最後まで食べ続けられる選択肢を持っておくことも重要だと思っています。
これはレース本番で突然できるものではありません。
普段のトレイル練習やロング走でもジェルや固形食を試し、自分がどのくらいの量なら問題なく摂れるのか、どんな食べ物なら長時間でも受け付けるのかを確認しておく必要があります。
補給もトレーニングの一部です。
エネルギージェルをどう選ぶか
トレイルランニングでは固形食も重要ですが、だからといってジェルが必要なくなるわけではありません。
むしろ、急登など運動強度が高い場面や、レース後半になって固形食を受け付けにくくなった場面では、コンパクトで摂取しやすいジェルが非常に使いやすくなります。
そのため私は、ロングトレイルでも固形食だけで補給計画を組むのではなく、
必ずジェルを組み合わせます。
私自身、マラソンやトレイルランニングでさまざまなジェルを使用してきました。
その経験と、食品開発者の仕事で得た知識をもとに開発したのがSAMURAIGELです。
SAMURAIGELについて詳しく知りたい方はこちらの記事で、開発した理由や特徴、実際の使用方法まで紹介しています。
まとめ|トレイルの補給は量だけでなく「いつ・何を食べるか」が重要
以前の私は、レース時間や消費カロリーから必要な補給量を計算し、その分の補給食を準備するという考え方をしていました。
もちろん必要なエネルギー量を考えることは大切です。しかし外部から摂取できるエネルギーは吸収できる量に限りがあることから、それだけではトレイルランニングの補給を考えるには不十分だと思っています。
・1時間あたりにどのくらいの糖質を摂るのか。
・どのタイミングなら食べやすいのか。
・ジェルと固形食のどちらを選ぶのか。
・この先のコースはどうなっているのか。
・次のエイドでは何が食べられるのか。
こうした要素を組み合わせて考えることが重要です。
補給方法には個人差がありますので、レース本番で初めて試すのではなく、普段のトレーニングから実際に食べながら走ってみてください。
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