ダニエルズのランニング・フォーミュラを使ってトレーニングしていると、EペースやTペースと並んで登場するのが「Mペース」です。
Mペースは「Marathon Pace(マラソンペース)」を意味しますが、
「Mペースは1km何分で走ればいいのか?」
「目標としているマラソンのレースペースで走ればいいのか?」
「Mペース走は10km、20km、それとも30kmやる必要があるのか?」
など、実際にトレーニングへ取り入れようとすると疑問も多いと思います。
特に注意したいのが、Mペース=次のマラソンで走りたい目標ペース、と単純に考えないことです。
ダニエルズ式のトレーニングでは、現在の走力をもとにVDOTを算出し、それに応じたMペースを設定していきます。
また、Mペース走は単に「マラソンと同じ速度で長く走る練習」でもありません。
実際のレースペースで走ることで、その速度でのフォームや呼吸、脚の感覚に身体を慣らしたり、給水やジェルなどを試したりと、マラソン本番に向けた実戦的なトレーニングとして活用できます。
この記事では、『ダニエルズのランニング・フォーミュラ』をもとに、Mペース走の効果や設定方法、VDOTを使ったペースの目安、適切な距離や時間、Eペース・Tペースとの違いまで詳しく解説します。
さらに後半では、私自身が実際に行っている、昼10km+夜10~15kmに分けてMペース付近を走る方法についても紹介します。
「Mペース走をマラソントレーニングにどう取り入れればいいのか分からない」という方は、ぜひ参考にしてください。
| 著者:千坂 充宏(SAMURAIGEL開発者) 書籍などを通じてトレーニングを独学し、初マラソン4時間58分から記録を伸ばし、40代でサブエガを達成。 主な自己ベスト YouTube|マウンテンランニング研究所 |
Mペース走とは?
Mペースとは「Marathon Pace(マラソンペース)」の略で、ジャック・ダニエルズが提唱するトレーニング強度の一つです。
ダニエルズのトレーニングでは、ランニングの強度を
・E(Easy)
・M(Marathon)
・T(Threshold)
・I(Interval)
・R(Repetition)
などに分け、それぞれ異なる目的で使い分けます。
その中でもMペースは、名前の通りマラソンで走ることを想定したペースです。
ただし、ここで注意したいのが、
「次のマラソンで走りたい目標ペース=自分のMペース」とは限らない
ということです。
例えば現在フルマラソンを3時間20分程度で走るランナーが、次のレースでサブ3を目指しているからといって、いきなりサブ3ペースの4分15秒/km前後をMペースとして練習するのが適切とは限りません。
ダニエルズのトレーニングでは、基本的に現在の走力をVDOTという指標で評価し、それをもとに各トレーニングペースを考えていきます。
Mペースについても同様で、重要なのは「将来的に走りたいペース」ではなく、現在の自分がマラソンで維持できる能力に見合ったペースから考えることです。
Mペースについては以下の動画でも解説しておりますので参考にしてみてください。
Mペースは現在の走力から設定する
Mペースを設定するときに注意したいのが、目標タイムから逆算して無理にペースを決めないことです。
例えばサブ3を達成するには、フルマラソンを平均約4分16秒/kmで走る必要があります。
そのため、
「次はサブ3を狙っているから、Mペースは4分16秒/kmでいきたい!」
と考えたくなります。
しかし、現在の走力がまだサブ3相当に達していなければ、4分16秒/kmはそのランナーにとって本来のMペースよりも高い強度になる可能性があります。
実際、Mペースについて検索すると「きついけれど、この設定で合っているのか」と悩むランナーも見られますし、目標レベルのVDOTを使ってトレーニングペースを設定してしまったことを失敗として振り返っているランナーもいます。
ダニエルズの考え方では、トレーニングは基本的に現在の能力に適した負荷を与えることが重要です。
将来的にサブ3を達成したいからといって、サブ3ランナーと同じトレーニングペースで走れば、その能力が身につくわけではありません。
まず現在の走力に対応したMペースでトレーニングを行い、走力が向上したら、それに合わせてMペースも速くしていく。
この順番で考えた方が、トレーニング強度を適切に管理できます。
VDOTからMペースを設定する
そこで使われるのが、ダニエルズが考案したVDOTです。
VDOTでは、5kmや10km、ハーフマラソンなどのレースタイムから現在の走力を評価し、その能力に対応したEペース、Mペース、Tペース、Iペース、Rペースなどを確認できます。
例えば「サブ3のMペースは約4分16秒/km」と紹介されることがありますが、これは、
「サブ3を目指している人は4分16秒/kmで練習する」という意味ではなく、
「現在サブ3相当の走力を持っているランナーに対応するMペースが、おおよそ4分16秒/km」
と考える方が分かりやすいでしょう。実際、Mペースを解説する上位記事でも、この点を明確に区別しているものがあります。
自分のVDOTが分からない場合は、直近の5kmや10kmなどのレース結果から確認してみると、自分に適したMペースを把握しやすくなります。
ここで大切なのは、Mペースは固定されたものではないということです。
トレーニングを継続して走力が上がればVDOTも上がり、それに伴って適切なMペースも速くなっていきます。
そのため、以前設定したMペースをずっと使い続けるのではなく、レース結果や現在の状態を見ながら定期的に見直していくとよいでしょう。
なお、VDOTの考え方や各トレーニングペースの設定方法については、別の記事で詳しく解説しています。
Mペースの目安|サブ4・サブ3.5・サブ3のペース一覧
では、実際にMペースは1kmあたり何分くらいになるのでしょうか。
下の表では、フルマラソンの走力を基準として、サブ5からサブエガまでのおおよそのMペースをまとめています。
自分の現在のフルマラソンの記録、あるいは5kmや10kmなどのレース結果から算出したVDOTと照らし合わせることで、Mペースを設定する際の目安として利用できます。
ここで注意したいのが、この表は「次のマラソンで達成したい目標タイムからMペースを決めるための表ではない」ということです。
例えば現在3時間20分程度の走力のランナーが、次のレースでサブ3を目標にしているからといって、いきなりサブ3相当の4分16秒/kmをMペースに設定するわけではありません。
あくまで、
「現在サブ3相当の走力があるランナーなら、Mペースは4分16秒/km前後になる」
という見方をします。
サブ4であれば約5分41秒/km、サブ3.5であれば約4分59秒/km、サブ3であれば約4分16秒/kmというように、マラソンの走力が上がるにつれてMペースも速くなっていきます。
ただし、フルマラソンの自己ベストだけで現在の走力を判断する必要はありません。
例えば自己ベストを出してから時間が経っている場合や、最近5kmや10kmの記録が大きく伸びている場合には、現在の短い距離のレース結果からVDOTを算出し、そこからMペースを確認する方法もあります。
反対に、過去の自己ベストでは高いVDOTだったとしても、長期間トレーニングから離れていた場合などは、その記録を基準にすると現在の身体に対してMペースが速すぎる可能性があります。
そのため、Mペースは一度決めたらずっと同じというものではなく、現在の走力に合わせて見直していくトレーニングペースと考えると分かりやすいでしょう。
また、ここで示したペースはあくまで目安です。
ダニエルズも、特にマラソン経験が少なく適正なMペースが分からないランナーについては、Mペースに相当する強度の低い側から始め、数週間にわたって身体の反応を確認しながら調整していく考え方を示しています。
「表ではこのペースだから絶対にこの速度で走らなければならない」と考えるのではなく、実際に走ったときの呼吸や余裕度、長時間走ったときの身体の反応も含めて、自分に適したMペースを判断していくことが重要です。
Mペース走の効果と目的
Mペース走の目的を考えるときに重要なのは、
単純に「心肺機能を高めるためのトレーニング」と考えないことです。
ダニエルズのトレーニングには、Eペース、Mペース、Tペース、Iペースなど、それぞれ異なる強度があります。
例えば乳酸閾値を高めることを主な目的とするのであればTペース、最大酸素摂取量に刺激を与えるのであればIペースというように、より高い強度で走るトレーニングがあります。
その中でMペース走の大きな特徴となるのが、実際のマラソンに近いペースで一定時間走り、本番で必要となる感覚や身体の反応を確認できることです。
特にフルマラソンでは、スタート直後に設定ペースで走れるかどうかよりも、そのペースを長時間維持できるかどうかが重要になります。
そのためMペース走では、単純に設定された数字どおりに走るだけではなく、「このペースで走ると呼吸はどうなるのか」「脚にはどの程度余裕があるのか」「時間が経過すると同じペースがどのように感じられるのか」といった部分まで確認していきます。
マラソンのレースペースを身体に覚えさせる
Mペース走の代表的な目的が、マラソンで使用するペースの感覚を身につけることです。
マラソンでは、スタート直後は身体が元気なため、予定していたペースより速く走ること自体はそれほど難しくありません。
例えばサブ3を狙って4分15~16秒/km程度で走る予定だったとしても、周囲につられて4分05秒、4分10秒と走れてしまうことがあります。
このとき本人にはそれほど無理をしている感覚がなくても、マラソンでは序盤のわずかなオーバーペースが後半の失速につながることがあります。
そこで普段からMペースで走り、
「この呼吸、この脚の感覚、この余裕度が自分のMペース」
という感覚と実際の速度を一致させていきます。
レース中に1kmごとのラップを確認することももちろん重要ですが、時計だけに頼るのではなく、自分の身体でも適切なペースを判断できるようになることは、マラソンを安定して走るうえで大きな武器になります。
長時間走ったときの身体の変化を確認できる
Mペース走には、もう一つ重要な目的があります。
それが、時間の経過によって同じMペースの感じ方がどのように変化するのかを確認することです。
例えば10km程度であれば比較的余裕を持って維持できるMペースでも、15km、20kmと距離が延びてくると、徐々に同じペースを維持することが難しくなってきます。
ダニエルズも、長時間走ることでエネルギー源が減少し、水分が失われ、深部体温が上昇することなどによって、同じペースを維持することが難しくなっていくと説明しています。
これはマラソン本番でも同じです。
つまりMペース走では、単に「4分00秒/kmで20km走れた」という結果だけを見るのではなく、
前半の4分00秒/kmと、長時間走った後の4分00秒/kmでは、自分の身体の反応がどう違うのか
という部分まで観察することが重要になります。
後ほど詳しく解説しますが、ダニエルズがロングランの後半にMペースを入れる方法を紹介しているのも、このようなマラソン後半に近い状態を作るためです。
給水・ジェル・シューズなどを本番前に確認できる
そしてMペース走は、補給や装備を含めたレースシミュレーションとしても活用できます。
ダニエルズも、マラソンランナーにとってMペースランニングは、走りながらジェルや水分を摂取する練習を行う良い機会だとしています。
フルマラソンでは、ジェルを用意するだけでは十分ではありません。
実際のレースペースで走りながらジェルを取り出して摂取できるのか、どのタイミングで摂れば胃腸に問題が起こらないのか、給水とどのように組み合わせるのか、といったことまで本番前に確認しておく必要があります。
また、シューズやウェアについても同様です。
ジョギングでは問題のなかったシューズでも、Mペースで20km前後走ると足の特定の場所に違和感が出ることもありますし、ウェアの擦れなども長時間走って初めて分かる場合があります。
そのためMペース走は、単に身体を鍛えるトレーニングというだけではなく、
「本番で使うペース・補給・給水・シューズ・ウェアを実際に試す場」
として利用できます。
このように考えると、Mペース走は単なる「Eペースより速い持続走」ではありません。
マラソン本番で必要になるものを、レース前に実際の速度で確認するための実戦的なトレーニングというのが、Mペース走の大きな特徴です。
Mペース走の効果と目的
Mペース走は、単純に心肺機能を高めることだけを目的としたトレーニングではありません。
ダニエルズのトレーニングにはEペース、Mペース、Tペース、Iペースなどがありますが、それぞれ目的が異なります。
その中でもMペース走の大きな特徴は、実際のマラソンに近いペースで一定時間走り、本番で必要となるペース感覚や身体の反応を確認できることです。
特にフルマラソンでは、スタート直後に設定ペースで走れることより、そのペースを長時間維持できるかどうかが重要になります。
そのためMペース走では、「設定されたペースで走れたか」だけではなく、そのペースで走ったときの呼吸や脚の感覚、時間の経過による変化まで確認していきます。
マラソンのレースペースを身体に覚えさせる
Mペース走の代表的な目的が、マラソンで使用するペースの感覚を身体に覚えさせることです。
マラソンの序盤は身体に余裕があるため、予定しているペースより速く走れてしまうことがあります。
例えばサブ3を狙って4分15~16秒/km程度で走る予定でも、スタート直後は4分05~10秒/kmで走ってもそれほど苦しく感じないかもしれません。
しかし、フルマラソンでは序盤のわずかなオーバーペースが後半の失速につながることがあります。
そこで普段からMペースで走り、
「この呼吸、この脚の感覚、この余裕度が自分のマラソンペース」
という感覚を身につけていきます。
時計に表示される数字と自分の感覚を一致させていくことが、Mペース走を行う意味の一つです。
長時間走ったときの身体の変化を確認できる
もう一つ重要なのが、時間の経過によって同じペースの感じ方がどう変わるのかを経験することです。
例えばMペースで10km程度なら余裕を持って走れていても、15km、20kmと距離が延びるにつれて、徐々に同じ速度を維持することが難しくなってきます。
ダニエルズはその要因として、長時間の運動によるエネルギー源の減少、水分の喪失、深部体温の上昇などを挙げています。
つまり、
前半の4分00秒/kmと、長時間走った後の4分00秒/kmでは、身体にとっての意味が違う
ということです。
Mペース走では、こうした身体の変化を経験しながら、レース後半でも設定したペースを維持する感覚を身につけていきます。
この考え方は、後ほど紹介する「ロング走の後半にMペースを入れる」というトレーニングにもつながります。
給水・ジェル・シューズなどを本番前に確認できる
そして、Mペース走はマラソン本番のシミュレーションとしても利用できます。
ダニエルズも、マラソンランナーにとってMペースランニングは、走りながらジェルや水分を摂取する練習を行う良い機会だとしています。
実際のマラソンでは、ジェルを用意するだけではなく、レースペースで走りながら取り出して摂取し、その後に給水する必要があります。
また、どのタイミングで摂れば胃腸に問題が起こりにくいのか、どのくらいの間隔で補給するのが自分に合っているのかといったことも、本番までに確認しておきたいところです。
シューズやウェアについても同様で、短いジョギングでは問題がなくても、レースに近い速度で長時間走ることで初めて違和感が出ることがあります。
そのためMペース走は、
ペース・補給・給水・シューズ・ウェアまで含めて、本番に向けた確認を行えるトレーニング
と考えることができます。
Mペース走は何km・何分やればいい?
Mペース走を取り入れるときに悩みやすいのが、「どのくらいの距離をMペースで走ればいいのか」という点です。
10km程度でも効果があるのか、それともマラソン練習なのだから20km、30kmと走る必要があるのか。
特に日本ではフルマラソン対策として30km走がよく行われるため、「30kmを本番のマラソンペースで走れるようにならなければいけない」と考えているランナーもいると思います。
しかし、ダニエルズが示しているMペーストレーニングを見ると、必ずしも30kmすべてをMペースで走る必要はありません。
ダニエルズが示すMペース走の距離と時間
今回参考にしている『ダニエルズのランニング・フォーミュラ』では、Mペースランニングの目安として、90~150分程度、距離については25kmを超えない範囲が望ましいとされています。
つまり、「Mペースなら必ず20km」「上級者なら30km」というように距離だけで考えるのではなく、走る時間と身体にかかる負荷も含めて考えるということです。
例えばMペースが5分30秒/kmのランナーと3分50秒/kmのランナーでは、同じ20kmを走っても運動時間は大きく異なります。
そのため、他のランナーが「Mペースで20km走っているから自分も20km」と考えるよりも、自分の走力やトレーニング全体の負荷を考えながら距離を設定することが重要です。
また、Mペース走は一度の練習で限界まで追い込むことを目的としたトレーニングではありません。
Mペースで長い距離を走れば当然疲労も大きくなるため、その後数日間のトレーニングに影響するほど負荷を高めてしまえば、週間・月間のトレーニング全体で見たときにマイナスになる可能性もあります。
「Mペースでどこまで走れるか」ではなく、「Mペースで何を身につけたいのか」から距離を考えることが大切です。
Mペースで30km走をする必要はある?
では、フルマラソン対策としてよく行われる30km走を、Mペースで行う必要はあるのでしょうか。
結論から言えば、マラソンを走るために30kmすべてをMペースで走ることが必須というわけではありません。
ここで分けて考えたいのが、「長い距離を走ること」と「マラソンペースで走ること」です。
例えばEペースで30~35km走れば、長時間身体を動かし続けることで脚の耐久性を高めたり、エネルギーが少なくなってきた状態で走ったりする経験ができます。
一方のMペース走では、本番に近い速度で走ることで、レースペースでのフォームや呼吸、脚への負荷、補給などを確認できます。
つまり、
30km走=長時間・長距離への適応
Mペース走=マラソンのレースペースへの適応
と考えると、それぞれの役割が分かりやすくなります。
もちろん、走力やトレーニング歴によっては30km近くをレースペースで走る選手もいますが、「30kmをMペースで走れなければ本番も走れない」と考える必要はありません。
むしろ、Mペース30km走によって大きな疲労を残すより、ロング走とMペース走を別々に行ったり、一回のロング走の中でMペース区間を設けたりする方法もあります。
Eペースで行うロング走の考え方については、別の記事で詳しく解説しています。
ロング走の後半だけMペースにする方法もある
ダニエルズが紹介している方法の中で面白いのが、最初から最後までMペースで走るのではなく、前半を遅いペースで走り、後半にMペースまで上げる方法です。
長時間走れば、徐々にエネルギーを消費し、水分も失われ、体温も上昇していきます。
つまり前半をMペースより遅く走ったとしても、長時間走った後でMペースまで上げれば、身体がフレッシュな状態でMペースを走るのとは違った刺激を得ることができます。
これはマラソン後半を考えると非常に実戦的です。
マラソンで本当に難しいのは、スタート直後にMペースで走ることではなく、30km前後まで走って疲労した状態でも、そのペースを維持することだからです。
例えばロング走の前半をEペースで走り、後半に一定時間Mペースを入れることで、総走行距離を確保しながら、疲労した状態でレースペースを維持する練習ができます。
また、最初から長時間Mペースで押し続けるよりも負荷を調整しやすいため、トレーニング全体とのバランスも取りやすくなります。
ダニエルズも、長い距離をすべてレースペースで走らなくても、長時間走った後にMペースへ上げることで、レース後半に近い感覚を経験できるという考え方を示しています。
そのためMペース走は、
「何kmまでMペースで走れたか」だけを競うトレーニングではありません。
一定距離をMペースで走る方法、Eペースと組み合わせる方法、ロング走の後半にMペースを入れる方法などを、目的に応じて使い分けることが重要です。
Mペース・Eペース・Tペースの違い
ダニエルズのランニング・フォーミュラでは、トレーニング強度をEペース、Mペース、Tペース、Iペース、Rペースなどに分けています。
その中でもマラソントレーニングで頻繁に使われるのが、Eペース・Mペース・Tペースです。
この3つは単純に「遅い・普通・速い」という違いではなく、それぞれトレーニングの目的が異なります。
特にMペースはEペースより速く、Tペースより遅いため、「中途半端なペースなのでは?」と思われることもありますが、マラソンという競技を考えるとMペースには独自の役割があります。
まず、それぞれの違いを簡単に整理すると以下のようになります。
Eペースは長く走るための土台づくり
Eペースの「E」はEasyを意味し、ダニエルズのトレーニングの中でも基本となる強度です。
ジョギングやロングランなどで使われ、比較的余裕を持った状態で長時間走ることができます。
マラソントレーニングでは走行距離を確保したり、長時間走ることに身体を慣らしたりするためにも重要で、私自身も普段のジョグや30~35km程度のロング走ではEペースを多く使っています。
一方でMペースはEペースより速く、実際のマラソンに近い速度で走ります。
つまり、
Eペースでは「長く走れる身体を作る」
Mペースでは「マラソンで使う速度に身体を適応させる」
というように考えると、両者の違いが分かりやすいと思います。
そのため、マラソン練習だからといってすべてのロング走をMペースで行う必要はありません。
Eペースで長時間走る日と、Mペースを取り入れる日を目的に応じて使い分けることで、それぞれ異なる刺激を入れることができます。
Eペースの効果や適切な設定方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
Mペースはマラソンに特化した実戦的なペース
Mペースは、Eペースより速く、Tペースより遅い強度になります。
そのため生理学的な負荷だけを考えると、「それならEペースで長く走るか、Tペースでもっと強い刺激を入れればいいのでは?」と思うかもしれません。
しかし、Mペースには実際のマラソンに近い速度で走るという大きな特徴があります。
先ほど解説したように、Mペースで走ることで、本番のペース感覚やフォーム、呼吸、長時間走ったときの脚の状態などを確認できます。
さらにジェルや給水、レース用シューズなどを試すこともできます。
つまりMペースは、EペースとTペースの単なる「中間」ではありません。
マラソンという競技に対する特異性を高めるためのペースとして考えると、その役割が分かりやすくなります。
Tペースは乳酸閾値を高めるトレーニング
Tペースの「T」はThresholdを意味し、日本語では一般的に「閾値ペース」と呼ばれます。
Mペースよりも速い強度で走り、乳酸の生成と除去のバランスが取れる境界付近を刺激することで、より速いペースを有酸素的に維持する能力を高めることが主な目的です。
そのため、Mペース走のように90分、120分と走り続けるのではなく、一定時間のテンポ走や、途中に短い休息を入れるクルーズインターバルなどが使われます。
Tペースでの能力が向上すれば、それより遅いMペースにも余裕が生まれます。
一方で、マラソンを走るからといってTペースだけを行えばいいわけではありません。
Tペースで速い速度を維持する能力を高め、Mペースでマラソン特有の速度に適応し、Eペースで長時間走る土台を作る。
このように、それぞれのトレーニングには異なる役割があります。
Tペースの設定方法や具体的なトレーニング方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
Mペース走の具体的なやり方
Mペース走というと、最初から最後まで一定のMペースで走り続けるトレーニングをイメージするかもしれません。
もちろんそれが基本的な方法ですが、Mペースの取り入れ方は一つではありません。
一定のMペースで走る方法だけでなく、Eペースと組み合わせたり、ロング走の後半にMペースを入れたりすることで、目的やトレーニング時期に合わせて負荷を調整できます。
一定のMペースで走る
最もシンプルなのが、設定したMペースを一定時間維持する方法です。
例えばウォーミングアップを行った後、Mペースで10~20km程度走り、最後にクールダウンを行います。
この方法のメリットは、自分のMペースを長時間維持したときの感覚を確認しやすいことです。
序盤は余裕があっても、距離が延びるにつれて呼吸や脚の感覚がどのように変化するのか、フォームを崩さずに走り続けられるのかなどを確認できます。
また、レース用シューズを履き、本番と同じジェルや給水を試せば、より実戦に近いトレーニングになります。
ただし、Mペース走は「設定ペースより速く走れれば成功」という練習ではありません。
調子が良い日にMペースからどんどん上げてしまうと、本来の目的から外れてTペースに近いトレーニングになってしまいます。
決めたMペースを余裕を持ってコントロールすること自体が、このトレーニングの重要なポイントです。
EペースとMペースを組み合わせる
すべての距離をMペースで走る必要はなく、EペースとMペースを一回のトレーニングの中で組み合わせる方法もあります。
例えば、
Eペース5km → Mペース10~15km → Eペース3~5km
といった組み方です。
最初にEペースで身体を温めてからMペースへ移行するため、いきなりMペースで走り始めるよりも自然にトレーニングへ入ることができます。
また、全体の走行距離を確保しながら、Mペース区間を必要な量だけ入れられるのもメリットです。
マラソントレーニングでは、一回の練習だけでなく、1週間あるいは数週間単位で負荷を考える必要があります。
Mペース区間を長くしすぎて次のポイント練習に影響するのであれば、Eペースと組み合わせながら必要な刺激だけを入れる方法も有効です。
ロング走の後半にMペースを入れる
もう一つ私が特にマラソントレーニングと相性が良いと考えているのが、ロング走の後半にMペースを入れる方法です。
例えば、
Eペース15~20km → Mペース10km
といった形です。
前半をEペースで走ることで、ある程度エネルギーを消費し、脚にも疲労がある状態を作ってからMペースへ上げます。
フレッシュな状態でMペース10kmを走るのと、20km近く走った後にMペース10kmを走るのでは、同じペースでも身体の感じ方は大きく異なります。
これは、マラソン後半に近い状況を作るという意味でも実戦的です。
実際のマラソンでは、30km地点から突然ペースを上げる必要があるわけではありません。
重要なのは、疲れてきた状態でも、それまでと同じマラソンペースを維持できることです。
そのため、ロング走の後半にMペースを入れるトレーニングでは、「最後にどれだけ速く走れるか」を競うのではなく、疲労した状態でも設定したMペースをコントロールできるかを確認します。
Mペースまで上げてもフォームや呼吸を保てるのか、ジェルを摂取した後も問題なく走れるのかなどを確認すれば、マラソン本番につながる非常に実戦的な練習になります。
Mペース走で注意したいこと
Mペース走は比較的シンプルなトレーニングですが、設定されたペースで走れば何でもいいわけではありません。
特に注意したいのが、調子が良い日にペースを上げすぎることや、Mペース走を頻繁に行いすぎること、そして暑さなどのコンディションを無視して設定ペースにこだわることです。
MペースにはMペースの目的があるため、速く走れるからといって速く走った方が効果的とは限りません。
調子が良くても設定以上にペースを上げない
Mペース走をしていると、身体の調子が良く、設定したペースがかなり楽に感じる日があります。
例えばMペースが4分00秒/kmに設定されているのに、「今日は余裕があるから3分50秒/kmまで上げよう」と考えてしまうこともあるでしょう。
しかし、ダニエルズはMペーストレーニングについて、気分が良いからといってペースを上げすぎないことを重要なポイントとして挙げています。
Mペース走の目的は、設定されたマラソンペースに身体を慣らし、その速度でのフォームや呼吸、補給などを確認することです。
そこで必要以上にペースを上げれば、Mペース走ではなく、徐々にTペースに近い負荷になっていきます。
速い強度の刺激を入れたいのであれば、別の日にTペースやIペースのトレーニングを行えばいいわけです。
Mペースの日はMペースに徹する。
これもトレーニングを継続していくうえでは重要な考え方です。
Mペースがきつすぎるなら設定を見直す
反対に、設定したMペースが最初からかなりきつく感じる場合も注意が必要です。
Mペースは決して楽なジョギングではありませんが、短時間しか維持できないような強度でもありません。
例えばMペース走を始めて数kmの段階から呼吸がかなり苦しくなり、「このペースを20km維持するのは到底無理」と感じるのであれば、現在の走力に対して設定が速すぎる可能性があります。
ここでありがちなのが、現在の走力ではなく目標タイムからMペースを設定してしまうケースです。
現在3時間20分程度の走力なのに、「次はサブ3を狙っているから」という理由だけで4分15~16秒/kmをMペースにしてしまえば、本来のMペースよりかなり高い強度になる可能性があります。
その状態で無理に距離を伸ばしても、狙っていたMペーストレーニングとは別の練習になってしまいます。
Mペースが明らかにきつい場合には、「自分の根性が足りない」と考えるのではなく、そもそものペース設定が現在の走力に合っているかを確認することが大切です。
Eペースを毎回Mペースに置き換えない
Mペースが比較的余裕を持って走れるようになると、普段のジョギングも少し速くしてしまいたくなることがあります。
ダニエルズも、コンディションが良い日にはEペースの一部、あるいは場合によってはその日のEランニングをMペースに置き換えることができるとしています。
しかし、これは毎回EペースをMペースにすればいいという意味ではありません。
Eペースには、比較的低い強度で走行距離を確保したり、疲労を抑えながら有酸素系へ刺激を与えたりする役割があります。
すべてのジョギングをMペース付近まで上げてしまえば、1回ごとの負荷はそれほど高く感じなくても、週間を通して疲労が蓄積しやすくなります。
Mペースが走れるからといって、普段からMペースで走る必要はありません。
Eペース・Mペース・Tペースにはそれぞれ役割があるため、目的に応じて使い分けることが重要です。
暑い日は設定ペースにこだわらない
もう一つ注意したいのが、気温や湿度などの環境条件です。
ダニエルズも、条件が明らかに悪い日にMペーストレーニングを行うことには否定的で、特に暑い環境では普段と同じペースを維持すること自体が難しくなります。
気温や湿度が高ければ、同じ4分00秒/kmで走っていても身体への負荷は通常より大きくなります。
それにもかかわらず、「Mペースは4分00秒/kmだから」と数字だけを見て無理に維持すると、本来想定していた強度を超えてしまう可能性があります。
特にMペース走は長時間になることも多いため、暑い環境では水分の喪失や体温上昇の影響も大きくなります。
そのため、条件が悪い日はペースを落として負荷を調整する、あるいはMペース走そのものを別の日に変更することも選択肢です。
Mペースは絶対に守らなければならない数字ではなく、適切なトレーニング強度を作るための基準として考えた方がいいでしょう。
私がMペース走をマラソントレーニングに取り入れるなら
ここまでダニエルズが示すMペース走について解説してきましたが、私自身のトレーニングでは、Mペースで20~25kmをまとめて走る練習はほとんど行っていません。
その代わりに行っているのが、Mペース付近のトレーニングを1日の中で2回に分ける方法です。
夏場を除けば基本的に週2回程度取り入れており、昼休みに約10km、夜に10~15km程度走ります。
つまり、一度に20~25kmのMペース走を行うのではなく、1日の合計では20~25km程度になるMペース付近のトレーニングを、2回に分割して行っているということです。
Mペース走を1日2回に分けている理由
この方法を取り入れている大きな理由は、一度のトレーニングで疲労を残しすぎないためです。
20~25kmをまとめてMペースで走れば、それだけ一回のトレーニングとしての負荷は大きくなります。
もちろん、それ自体が悪いわけではありません。
しかし私の場合、一度の練習で大きな疲労を残してしまい、その後しばらく質の高いトレーニングができなくなるよりも、負荷を分散しながら継続してトレーニングできることを重視しています。
この考え方には、私が取り入れているノルウェーメソッドの考え方も影響しています。
一度の練習で限界まで追い込むのではなく、強度をコントロールしながらトレーニングを分割し、質の高い運動を繰り返すという考え方を、Mペーストレーニングにも応用しています。
また、現実的な理由として、昼休みに確保できる時間では10km程度しか走れないという事情もあります。
そこで無理に一回で長いMペース走を行うのではなく、昼と夜に分けることで、仕事をしながらでも必要なトレーニング量を確保しています。
昼はやや速く、夜はMペースを中心に走る
昼と夜でまったく同じトレーニングを行っているわけでもありません。
私の場合、朝や夜と比較すると昼の方が身体が動きやすいため、負荷の高いトレーニングを行う場合は昼休みに入れることが多いです。
そのため昼の10kmについては、純粋なMペースだけではなく、その日の体調やトレーニング状況によってはTペースに近いところまで上げることもあります。
一方、夜は10~15km程度をMペース中心で走ります。
ただし、「昼は必ずこのペース、夜は必ずこのペース」と固定しているわけではありません。
その日の体調や疲労、直近に行ったトレーニング、そして目標としているレースまでの日程などを考えながら強度を調整しています。
私にとって重要なのは、決められたメニューを無理にこなすことではなく、その時点で必要な刺激を入れながら、次のトレーニングにつなげることです。
ロング走とMペース走の役割を分けている
一方で、Mペース走を分割しているからといって、長い距離を走っていないわけではありません。
30~35km程度のロングランについては、Mペース走とは別にEペースを中心として行っています。
私の中では、この2つのトレーニングの役割を分けています。
Eペースでのロングランでは、長時間走り続けるための土台や脚の耐久性を作る。
それに対してMペース走では、実際のマラソンに近い速度で走る機会を増やし、その動きや身体の感覚に慣れていく。
つまり、「長い距離を走ること」と「Mペースで走ること」を必ずしも一回のトレーニングで同時に行う必要はないと考えています。
もちろん20~25kmを連続してMペースで走る方法にもメリットはありますが、私は役割を分けることで一回あたりの負荷を抑え、トレーニング全体を継続しやすくしています。
Mペースを繰り返すことでレース中の変化にも気づきやすくなった
この方法を継続して感じている大きな変化が、Mペースそのものがかなり楽に感じられるようになったことです。
同じ速度で走る機会を何度も作ることで、そのペースでのフォームや呼吸、脚の動きが身体に馴染んできます。
さらに私が大きいと感じているのが、レース中の身体の変化に敏感になったことです。
普段からMペースで走っていると、「いつものMペースならこのくらいの呼吸」「このくらいの脚の感覚」という基準が自分の中にできます。
そのためレース中に、同じペースなのに普段より呼吸が苦しい、脚に力が入りにくい、いつもより余裕がない、といった小さな変化にも比較的早く気づけるようになります。
そして変化を早い段階で察知できれば、完全に失速してから対応するのではなく、少しペースを落とす、補給を早めるなど、その時点で対策を取ることができます。
Mペースに慣れるというのは、単に「その速度で楽に走れるようになる」ということだけではなく、自分にとって正常な状態を知ることにもつながると感じています。
マラソン直前は速いトレーニングも取り入れる
マラソン直前まで、ずっと同じMペーストレーニングを続けるわけでもありません。
私の場合、マラソンに向けてMペースでの動きを十分に身体に慣れさせた後は、5000mの記録向上にもつながるような、より速いペースでのトレーニングを中心に取り入れる時期を作ります。
狙っているのは、Mペースそのものをさらに速くして追い込むことではありません。
より速い速度で走るトレーニングによってランニングエコノミーを高め、これまで何度も繰り返して身体に慣れさせてきたマラソンペースを、相対的にさらに楽に感じられる状態を作ることです。
私の場合は、
Eペースのロングランで長時間走れる身体を作り、分割したMペース走でレースペースに慣れ、さらに速いトレーニングでそのMペースに余裕を作る。
このように、それぞれのトレーニングに役割を持たせながらマラソンに向けて組み立てています。
もちろん、これがすべてのランナーにとって最適な方法というわけではありません。
ダニエルズが示すトレーニングを基本としながらも、自分の生活環境や疲労の残り方、現在の走力などを考え、継続できる形にアレンジしていくことも重要だと私は考えています。
まとめ|Mペース走はマラソン本番を想定した実戦的なトレーニング
Mペースとは「Marathon Pace」の略で、ダニエルズのランニング・フォーミュラで示されているトレーニング強度の一つです。
Eペースより速く、Tペースより遅い強度になりますが、単純に両者の中間にあるペースというわけではありません。
Mペース走の大きな目的は、実際のマラソンに近い速度で走ることで、そのペースでのフォームや呼吸、脚の感覚に身体を慣らし、本番に必要なペース感覚を身につけることです。
さらに、長時間走ったときに身体がどのように変化するのかを確認したり、ジェルや給水、シューズなどを試したりと、マラソン本番を想定した実戦的なトレーニングとしても活用できます。
一方で、Mペースは「次のマラソンで走りたい目標ペース」をそのまま設定すればいいわけではありません。
基本的には現在の走力を基準として設定し、実際に走ったときの余裕度や身体の反応を見ながら調整していくことが重要です。
また、必ずしも20~30kmを一度にMペースで走る必要もありません。
一定距離をMペースで走る方法、Eペースと組み合わせる方法、ロング走の後半だけMペースまで上げる方法など、目的に応じてさまざまな取り入れ方ができます。
私自身は、Eペースで行う30~35kmのロングランとは別に、昼と夜にMペース付近のトレーニングを分割して行っています。
長い距離を走る能力はEペースのロングランで作り、Mペースへの適応は分割したMペース走で高める。そしてマラソンが近づいてきたら、より速いトレーニングによってランニングエコノミーを高め、Mペースそのものに余裕を作る。
このように、それぞれのトレーニングの目的を分けて考えています。
ダニエルズが示すMペースの考え方を基本としながらも、走力や疲労の残り方、生活の中で確保できるトレーニング時間は人によって異なります。
Mペース走を「決められた距離を決められたペースでこなす練習」と考えるのではなく、自分のマラソンペースに身体を適応させ、本番でそのペースをより確実に使えるようにするためのトレーニングとして取り入れてみてください。
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