マラソンのトレーニングをしていると、
「EペースやTペースって何?」
「VDOTはどうやってトレーニングに使う?」
「ダニエルズのランニングフォーミュラを読んだけれど、実際の練習にどう取り入れればいいの?」
と疑問に感じる人も多いと思います。
『ダニエルズのランニングフォーミュラ』では、ランニングをただ「速く走る・ゆっくり走る」と考えるのではなく、E・M・T・I・Rという異なる強度に分け、それぞれの目的に応じてトレーニングする考え方が紹介されています。
そして、そのトレーニング強度を決めるうえで重要になるのがVDOTです。
私自身、この本を初めて読んだのは2014年頃。当時のフルマラソンのタイムは4時間58分でした。
そこからダニエルズの考え方をトレーニングに取り入れながら、現在はフルマラソン2時間46分まで記録を伸ばしています。
ただ、10年以上実践してきて感じるのは、VDOTに表示されたペースでE・M・T・I・Rをすべて行えば速くなる、という単純なものではないということです。
この記事では、ダニエルズのランニングフォーミュラの基本的な考え方から、VDOTとは何か、E・M・T・I・Rの違い、実際のトレーニングへの取り入れ方まで詳しく解説します。
さらに、私自身がフルマラソン4時間58分から2時間46分まで記録を伸ばす中で、ダニエルズの考え方をどのように使ってきたのかも紹介します。
| 著者:千坂 充宏(SAMURAIGEL開発者) 書籍などを通じてトレーニングを独学し、初マラソン4時間58分から記録を伸ばし、40代でサブエガを達成。 主な自己ベスト YouTube|マウンテンランニング研究所 |
ダニエルズのランニングフォーミュラとは?
『ダニエルズのランニングフォーミュラ』は、ランニングのトレーニングを強度ごとに分類し、それぞれの目的や適切な運動強度、時間などを体系的に解説した書籍です。
特徴的なのが、現在の走力を示す指標であるVDOTをもとにトレーニング強度を設定し、目的に応じてE・M・T・I・Rという5つのトレーニングペースを使い分ける考え方です。
例えば、同じ「走る」というトレーニングでも、EペースとTペースでは強度だけでなく、身体に与える刺激やトレーニングの目的が異なります。
そのため、単純に「今日は何km走る」「できるだけ速く走る」と考えるのではなく、
「何の能力を伸ばしたいのか」
→「そのためにはどの強度で走るのか」
→「どのくらいの時間・距離を行うのか」
と考えてトレーニングを組み立てていきます。
また、同じトレーニングを続けることで身体はその刺激に適応していきますが、走力が向上すれば、次に伸ばしたい能力に合わせてトレーニング内容を変えていく必要があります。
こうした「トレーニングの目的を明確にし、現在の走力に適した刺激を与える」という考え方が、ダニエルズ式トレーニングを理解するうえで重要になります。
以下の動画でもダニエルズのランニングフォーミュラについては解説しております。
では、ダニエルズでは具体的にどのようにトレーニングを考えていくのでしょうか。
ダニエルズ式トレーニングの基本的な考え方
ダニエルズのランニングフォーミュラを読んで、私のトレーニングに対する考え方は大きく変わりました。
それまでは「長く走れるようになること」がトレーニングの中心でしたが、ダニエルズではそれぞれのトレーニングに目的があり、鍛えたい能力によって適切な強度や運動時間が異なるという考え方が示されています。
ここでは、私自身が特に重要だと感じている考え方を紹介します。
トレーニングによって身体は適応する
ランニングトレーニングを継続すると、その刺激に対して身体は徐々に適応していきます。
私自身、走り始めた頃は低強度のジョギングを長く続けられるようになるだけでも、マラソンの記録は大きく伸びました。
その後、Eペースのトレーニングを取り入れるようになると、さらに走力が伸びていきました。
一方で、同じトレーニングを継続していれば、いつまでも同じように走力が伸び続けるわけではありません。
実際、私もある程度まで走力が向上すると、それまで効果を感じていたトレーニングだけでは記録が伸びにくくなる時期がありました。
身体が現在の刺激に適応したら、次に伸ばしたい能力に合わせてトレーニングを変えていく。
これは、ダニエルズの考え方を実際のトレーニングに取り入れるうえで重要だと感じています。
距離ではなく「何を鍛えるか」を考える
ランニングでは「今日は10km走る」「今週は100km走る」といったように、距離を基準にトレーニングを考えがちです。
しかし現在の私は、距離そのものよりも、そのトレーニングでどの能力を鍛えたいのかを先に考えるようにしています。
例えばマラソンシーズンが近づいてきた時期であれば、私の場合はマラソンペースをより楽に感じられる状態を作ることを重要視します。
そのために、ランニングエコノミーの向上や長い距離に対する耐性など、その時期に必要な能力を考えながらトレーニングを組み立てます。
具体的には、Eペースでの35km走を行ったり、Mペース以上の強度を重点的に取り入れたりしています。
つまり、
「何km走るか」→「どんな練習にするか」
ではなく、
「何を鍛えたいか」→「そのためには、どの強度・距離・時間が必要か」
という順番です。
この考え方ができるようになったことは、ダニエルズのランニングフォーミュラから得た大きな変化のひとつです。
きついトレーニングほど効果が高いわけではない
もうひとつ重要なのが、トレーニングは単純にきつければいいわけではないということです。
高い強度で走れば身体への負荷は大きくなります。しかし、狙っている運動強度から外れてしまえば、そのトレーニングで本来向上させたい能力に対して適切な刺激を与えられない可能性があります。
さらに、強度を上げすぎれば疲労も大きくなるため、トレーニングのボリュームを確保することも難しくなります。
だからこそ重要なのは、毎回限界まで追い込むことではなく、
「何の能力を伸ばすトレーニングなのかを明確にして、その目的に合った強度で必要な量を行うこと」
だと考えています。
ダニエルズでは、このトレーニング強度を考えるうえで重要になる指標としてVDOTが使われます。
では、VDOTとは具体的にどのようなものなのでしょうか。
VDOTとは?
ダニエルズのランニングフォーミュラを理解するうえで、重要になるのがVDOTです。
VDOTを活用することで、現在の自分の走力をひとつの指標として捉え、その走力に応じたトレーニングペースを設定できます。
私自身もダニエルズの考え方をトレーニングに取り入れる際、
「自分のVDOTはいくつなのか」→「そのVDOTではどのくらいのペースで走ればいいのか」
という使い方をしてきました。
VDOTは現在の走力を表す指標
VDOTは、レース結果などのランニングパフォーマンスから、現在の走力を評価するための指標です。
例えば5kmのレースを走った場合、そのタイムから自分のVDOTを求めることができます。
そして重要なのは、単に「VDOT○○」という数字を知ることではありません。
VDOTを基準にすることで、現在の走力に応じたトレーニングペースを設定できることに大きな意味があります。
ダニエルズではトレーニングをE・M・T・I・Rなどの強度に分けていますが、それぞれを「1km○分で走ればいい」と全員共通のペースで設定するわけではありません。
走力が違えば、同じトレーニング効果を狙うためのペースも変わります。
そこでVDOTを使い、現在の自分に適したトレーニング強度を設定するというわけです。V.O2の公式ツールでも、レース結果からVDOTを算出し、それに対応したトレーニングペースを確認できます。
VDOTとVO₂maxは同じものではない
名前が似ているため混同しやすいのですが、VDOTとVO₂max(最大酸素摂取量)は同じものではありません。
VO₂maxは、運動中に身体が取り込んで利用できる酸素量の最大値を表す生理学的な指標です。
一方、VDOTは実際のランニングパフォーマンスをもとに走力を評価し、トレーニング強度の設定に利用するための指標です。
そのため、
「VDOTが60だから、実際に測定したVO₂maxも60」という意味ではありません。
VDOTは、現在のランニング能力をトレーニングに落とし込むための実用的な指標として捉えると分かりやすいでしょう。
VDOTからトレーニングペースを設定できる
VDOTの便利なところは、現在の走力からトレーニングで使用するペースの目安を確認できることです。
基本的な流れはシンプルです。
最近のレース結果
↓
VDOTを確認
↓
現在の走力に対応したトレーニングペースを確認
↓
E・M・T・I・Rなどのトレーニングに活用
私自身も、このようにVDOTを確認しながらトレーニングペースを考えてきました。
VDOTは公式の計算ツールでも確認できます。
最近のレース結果を入力すれば、VDOTとそれに対応したトレーニングペースを確認できます。
VDOTは「目標」ではなく現在の走力を基準にする
ここで注意したいのが、目標タイムではなく、現在の走力を基準にトレーニング強度を設定するということです。
例えば現在3時間30分のランナーが、
「サブ3を目指しているから、最初からサブ3相当のトレーニングペースで走ろう」
と考えるのとは少し違います。
現在の走力よりも大幅に高い強度を設定すると、本来狙っているトレーニング強度から外れてしまう可能性があります。
先ほど解説したように、トレーニングはきつければきついほど効果が高くなるわけではありません。
まず現在の走力に合った刺激を与え、身体が適応して走力が向上したら、VDOTやトレーニングペースも更新していく。
この考え方が基本になります。V.O2でも、現在のフィットネスを反映する最近のレース結果などからVDOTを設定することが案内されています。
そして、VDOTによって自分に合ったトレーニング強度が分かったら、次に理解したいのが「それぞれの強度で何を鍛えるのか」です。
ダニエルズでは、その目的に応じてトレーニングペースをE・M・T・I・Rなどに分類しています。
Eペース(Easy)
Eペースは、ダニエルズが設定するトレーニング強度の中でも比較的低い強度で行うランニングです。
主な目的は、心筋の強化や毛細血管の発達、ミトコンドリアの増加など、長距離を走るための有酸素能力の土台を作ることにあります。
私自身もマラソンの記録を伸ばしてきた中で、Eペースは最も多く行ってきたトレーニングのひとつです。
特に走り始めた頃は低強度のジョギングが中心でしたが、徐々に走力がつき、Eペースである程度の時間・距離を走れるようになったことで、マラソンの記録も大きく伸びました。
一方で、Eペースは単なる「ゆっくり走るジョギング」とも少し異なります。
現在の走力に対して適切な強度で走ることが重要であり、その設定にも先ほど解説したVDOTを活用できます。
Eペースの具体的な設定方法や心拍数、距離、私自身が実際にどのように取り入れているかについては、別の記事で詳しく解説しています。
Mペース(Marathon)
Mペースは、その名前のとおりマラソンを走るときのレースペースを想定したトレーニング強度です。
Eペースよりも速く、Tペースよりも遅い強度に位置します。
ダニエルズのランニングフォーミュラでは、単に「マラソン本番と同じペースで走る練習」というだけではなく、長時間にわたって一定のペースで走る能力を身につけたり、実際のマラソンペースに身体を慣らしたりするためのトレーニングとして活用されます。
例えば、VDOTから自分のMペースを確認することで、
「現在の走力なら、マラソンペースとしてどのくらいの速度が目安になるのか」
を考えることができます。
私自身、マラソンの記録を伸ばしていく中で、Mペースは非常に重要なトレーニングのひとつになりました。
特に走力が高くなってからは、単にMペースで走れるだけではなく、**「Mペースをどれだけ余裕を持って走れる状態にできるか」**を意識しています。
そのため、現在はMペースそのもののトレーニングだけでなく、Eペースで長い距離を走って距離への耐性を高めたり、Mペースより速い強度のトレーニングを行ったりすることで、相対的にMペースを楽に感じられる状態を目指しています。
ただし、これはダニエルズの内容をそのまま実践しているというよりも、ダニエルズの考え方を土台として、自分の経験から取り入れている方法です。
この点については、後ほど私がマラソン4時間58分から2時間46分まで記録を伸ばしてきた過程とあわせて詳しく紹介します。
Tペース(Threshold)
Tペースは、乳酸の産生と処理のバランスが変化する境目付近を狙って行うトレーニング強度です。
Threshold(閾値)の頭文字から「Tペース」と呼ばれています。
ダニエルズのトレーニングでは、主に乳酸性作業閾値を高め、比較的速いペースを長く維持する能力を向上させることを目的として行います。
EペースやMペースよりも強度が高くなりますが、短時間で限界まで追い込むようなトレーニングではありません。
ここでも重要になるのが、先ほど解説した「きつければきついほどいいわけではない」という考え方です。
Tペースより速く走れば負荷そのものは大きくなりますが、それによってTペースで狙っているトレーニング効果から外れてしまう可能性があります。また、強度を上げすぎれば継続できる時間も短くなり、必要なトレーニング量を確保しにくくなります。
そのため、VDOTを参考にしながら現在の走力に合った強度で行うことが重要です。
私自身も5000mやマラソンの走力を伸ばす中でTペースを取り入れてきましたが、必ずしも「VDOTで設定されたTペースを20分間走る」という方法だけで行ってきたわけではありません。
実際のトレーニングでは、目標とするレースや時期によってTペースの取り入れ方も変えています。
Tペースの具体的な設定方法や時間・距離、心拍数、私自身の取り入れ方については、以下の記事で詳しく解説しています。
Iペース(Interval)
Iペースは、最大酸素摂取量(VO₂max)付近の能力を高めることを目的としたトレーニング強度です。
Interval(インターバル)の頭文字から「Iペース」と呼ばれています。
E・M・Tペースよりも強度が高く、一定時間の速いランニングとリカバリーを繰り返す、いわゆるインターバルトレーニングで用いられます。
代表的なのが、
「1000mをIペースで走る → リカバリー → 再び1000mを走る」
といった方法です。
Iペースでは、心肺機能に高い負荷をかけ、VO₂max付近で運動する時間を確保することが重要になります。
そのため、単純に「できるだけ速く1000mを走ればいい」というわけではありません。
設定より大幅に速く走ってしまうと、1本あたりの負荷は高くなっても、後半まで同じペースを維持できなくなったり、本数をこなせなくなったりします。
結果として、本来狙っていた強度でのトレーニング量を確保できなくなる可能性があります。
ここでも、「きついほど効果が高い」のではなく、「目的に合った強度で必要な量を行う」
というダニエルズの考え方が重要になります。
私自身も1000mのインターバルなどを取り入れていますが、走力やトレーニング時期によって設定ペースや本数を変えています。
特に5000mの記録向上を狙う時期にはIペース付近のトレーニングを取り入れることがありますが、年間を通して常に同じ頻度で行っているわけではありません。
今どの能力を伸ばす必要があるのかを考え、その中でIペースの優先順位を決めるようにしています。
Rペース(Repetition)
Rペースは、ダニエルズが設定するトレーニング強度の中でも速いペースで行うトレーニングです。
Repetition(反復)の頭文字から「Rペース」と呼ばれています。
Iペースが主にVO₂max付近の能力向上を狙うのに対して、Rペースではスピードやランニングエコノミーを高め、速い動きを効率よく行えるようにすることが重要になります。
そのため、Rペースでは長い距離を走り続けるのではなく、200mや400mなど比較的短い距離を速く走り、その間に十分なリカバリーを取って反復する方法が基本となります。
ここで重要なのが、疲労した状態で無理に本数を重ねることが目的ではないという点です。
Rペースでは速い動きを繰り返すため、フォームを崩してまで追い込むのではなく、1本ごとの動きの質を保ちながら反復することが重要になります。
私自身も200mなどの短い距離を速く走るトレーニングを取り入れています。
こうしたトレーニングを行う目的は、単純に短距離を速く走れるようにすることだけではありません。
普段より速い動きに身体を慣らすことで、それより遅い5000mやマラソンのペースに対して動きの余裕を作るという考え方でも取り入れています。
ただし、これは私自身の実践から感じている部分も含まれます。
ダニエルズにおけるRペースの基本的な目的は、スピードやランニングエコノミーなどを改善するために、適切な速い動きを十分な回復を挟みながら繰り返すことと捉えると分かりやすいでしょう。
ダニエルズ式トレーニングを実際の練習にどう取り入れる?
ここまでE・M・T・I・Rの5つのトレーニングペースについて解説してきました。
では、実際のトレーニングではこれらをどのように組み合わせればいいのでしょうか。
私自身、ダニエルズの考え方を取り入れてトレーニングしていますが、E・M・T・I・Rをすべて毎週行っているわけではありません。
重要なのはメニューを満遍なくこなすことではなく、
「今の自分にはどの能力が不足していて、その能力を向上させるためにはどんな刺激が必要なのか」
を考えることだと思っています。
まず「今の自分に何が足りないのか」を考える
私の場合、トレーニング内容を決めるときに重視しているのが、
目標レースまでの時期と、現在不足している能力
です。
その判断材料のひとつとして、5000mとマラソンのレース結果を比較しています。
例えば現在、5000mの走力から考えると、フルマラソンでは2時間43分前後に相当する走力があると考えています。
一方、実際のフルマラソンの自己ベストは2時間46分48秒です。
ここに差があるのであれば、単純に5000mをさらに速くするだけではなく、5000mで発揮できている有酸素能力を42.195kmでも維持する能力に課題があるのではないかと考えることができます。
そこでマラソンに向けては、長い距離への耐性やMペース付近で走り続ける能力などを重点的に強化していきます。
このように私は、
レース結果 → 現在の走力を把握 → 不足している能力を考える → トレーニングを決める
という順番で考えています。
ただし、レース結果なら何でも基準にするわけではありません。
明らかな体調不良など、実力を十分に発揮できなかったレースについては、その結果だけを見て現在の能力を判断しないようにしています。
メニューではなく「与えたい刺激」から考える
トレーニングを決めるときも、「今日は1000m×5本をやる」と最初からメニューを決めることはあまりありません。
例えばVO₂max付近の能力を刺激したいのであれば、まず、
「今日はVO₂max付近に刺激を入れたい」
という目的があります。
そのうえで、その日の状態などを見ながらロングインターバルにするのか、比較的短いインターバルにするのかを考えます。
つまり、
1000m×5をやる → VO₂maxを鍛える
ではなく、
VO₂maxを刺激したい → そのために今日はどんなメニューが適切か
という順番です。
これはE・M・T・I・Rすべてに共通しています。
トレーニングメニューそのものが目的になるのではなく、身体にどんな刺激を与えたいのかを先に考えることが重要です。
Eペースにも明確な目的を持たせる
Eペースについても、「ポイント練習をしない日のジョギング」という位置付けだけではありません。
私の場合、現在は週末を中心にEペースのトレーニングを配置しています。
特にマラソンに向けた時期には、Eペースで35km程度走ることで長時間走り続けるための土台を作るなど、目的を持って行っています。
以前は1週間のほとんどをEペースで走っていた時期もありました。
しかし走力が向上するにつれて、平日にM・T・Iなどのポイント練習を行うようになり、結果として週間走行距離に占めるEペースの割合は以前より低くなっています。
大切なのは「Eペースを何%行う」と固定することではなく、現在伸ばしたい能力とのバランスを考えて配置することだと考えています。
目標レースまでの時期によって重点を変える
どの強度を重視するかは、目標レースまでの期間によっても変えています。
私の場合、レースが2か月程度先に近づいてくると、よりレースに必要な能力を意識したトレーニングを増やします。
マラソンシーズンであればMペース付近のトレーニング量を増やします。
ただし、5000mで記録を狙う時期であっても、Mペース付近のトレーニングボリュームをある程度確保することがあります。
一方、ランニングエコノミーや速い動きを改善したい場合には、目標レースがマラソンであってもT・I・Rペースなどの刺激を取り入れます。
つまり、
「マラソンだからMペースだけ」
「5000mだからIペースだけ」
と単純に分けているわけではありません。
目標とするレースに必要な能力を考えながら、現在不足している能力への刺激も組み合わせています。
ポイント練習は十分に回復してから行う
現在、私はポイント練習を週3回程度行うことがあります。
ただし、回数以上に重要視しているのが、狙った刺激をきちんと身体に入れられる状態でポイント練習を行うことです。
疲労困憊の状態で無理にポイント練習を行っても、設定した強度まで上げられなかったり、必要なトレーニング量をこなせなかったりします。
それでは、本来狙っていた能力に十分な刺激を与えられない可能性があります。
そのため、ポイント練習の間ではジョギングなどを使って疲労を調整し、できるだけ回復した状態で次の重要なトレーニングに入るようにしています。
また、週間メニューについても毎週同じではありません。
トレーニングボリュームを重視する段階と、より速い動きやランニングエコノミーを重視する段階を分けながら、その時期に必要な能力を強化しています。
VDOTどおりに走れない日は無理をしない
VDOTからトレーニングペースを設定していても、毎日必ずそのペースで走れるわけではありません。
睡眠や疲労などによって、明らかに身体が動かない日もあります。
私の場合、そのような日は低強度のジョギングに変更して、調子が戻るのを待ちます。
無理に予定していたポイント練習を行っても、狙った刺激を入れられないまま疲労だけが大きくなる可能性があるからです。
VDOTは非常に便利な指標ですが、表示された数字をどんな状態でも守らなければならないものではないと考えています。
現在の走力をもとに適切なトレーニング強度を考えるための基準として使い、その日の身体の状態も合わせて判断することが大切です。
目標タイムのVDOTでいきなり練習しない
ダニエルズ式を取り入れる際に、特に注意したいと感じているのが、現在の走力とかけ離れた目標タイムのVDOTを基準にしてしまうことです。
例えば現在の走力よりかなり速い目標タイムを設定し、そのVDOTに対応したTペースやIペースでトレーニングしようとすれば、本来狙っている運動強度よりも負荷が高くなる可能性があります。
また、身体がその負荷を受け止められる状態になっていないのに、E・M・T・I・Rを無理に組み合わせることにも注意が必要です。
設定されたメニューをこなすこと自体が難しくなるだけでなく、故障につながる可能性もあります。
現在の走力に合った負荷から始め、身体が適応して走力が向上したらトレーニング強度も引き上げていく。
私自身、これがダニエルズの考え方を長くトレーニングに取り入れていくうえで非常に重要だと感じています。
私がマラソン4時間58分から2時間46分まで伸びる中で感じたこと
ここまでダニエルズのランニングフォーミュラの考え方について解説してきました。
私がこの本を読み始めた2014年頃、フルマラソンのタイムは4時間58分でした。
そこからトレーニングを続け、現在は2時間46分まで記録を伸ばしています。
ただし、最初からE・M・T・I・Rのすべてを取り入れていたわけではありません。
振り返ってみると、走力が上がるにつれて必要なトレーニングも変わってきたと感じています。
4時間58分からサブ4までは「長く走れる身体」を作った
走り始めた頃の私は、30分程度の低強度ジョギングがトレーニングの中心でした。
そもそも長時間走ることができなかったため、まず取り組んだのは低い強度で走れる時間を少しずつ伸ばすことです。
サブ4が見えてきた頃には、1回1時間程度であれば走れるようになり、ランニングの頻度も徐々に増やせるようになりました。
それでも、この頃に3時間以上ジョギングした経験はありません。
そのため、「42.195kmを最後まで走り切れる」という感覚はまだなく、実際のマラソンでも後半はかなり歩いていました。
それでも記録が伸びたのは、当時の私にとって最大の課題が速く走ることではなく、長時間身体を動かし続けることだったからだと思います。
今振り返っても、走力がまだ十分ではない段階で無理に速いトレーニングを増やすより、まず低強度で走れる身体を作ったことは重要だったと感じています。
サブ4からサブ3まではEペースのボリュームを増やした
走れる身体ができてくると、次にEペースのトレーニングを増やしていきました。
サブ3が近づいてきた頃には、Eペースで走る頻度はかなり高くなっていました。
平日に15~20km程度を2回、さらに週末には25km程度走ることもありました。
この頃に最も変わったと感じたのが、回復力です。
Eペースのトレーニングを継続することで、一度の練習をこなせるようになっただけではなく、次のトレーニングまで回復し、再び走れるようになっていきました。
結果として週間を通して多くのトレーニングを積めるようになり、走力もさらに向上していった感覚があります。
また、長い距離を繰り返し走ることで脚の筋力や耐久性も向上し、マラソン後半に脚が動かなくなる感覚も徐々に減っていきました。
この時期には100m程度の流しを入れることはありましたが、TペースやMペースでの本格的なトレーニングはほとんど行っていませんでした。
それでも、Eペースを中心としたトレーニングでサブ3付近まで記録を伸ばすことができました。
サブ3から先でEペース中心のトレーニングが頭打ちになった
ところが、サブ3を達成したあたりから状況が変わります。
記録自体は少しずつ伸びていましたが、それまでのような大きな伸びがなくなり、停滞する期間が3年ほど続きました。
それまでEペース中心のトレーニングで順調に速くなってきたため、当時の私はその延長線上でさらにトレーニング量を増やせば、記録も伸びていくと考えていました。
その考え方を変える大きなきっかけになったのが、別府大分毎日マラソンです。
当時はサブエガを目標として1km4分程度で走りましたが、調子が良かったにもかかわらず、4:00/kmがスタートから余裕のないペースに感じました。
最終的なタイムは2時間55分前後。
このレースを経験して、
「Eペースをどれだけ増やしても、マラソンペースそのものを楽に感じられるようにならなければ、ここから先は大きく伸びないのではないか」
と考えるようになりました。
MペースとTペースを増やすと再び記録が伸び始めた
そこで増やしたのが、MペースとTペースでのトレーニングです。
Eペースで土台を作るだけでなく、実際のマラソンペース付近や、それより速い強度で走る頻度を増やしました。
目的は、マラソンレースペースそのものを底上げし、これまで速いと感じていたペースを相対的に楽にすることです。
すると、マラソンの記録だけではなく5000mのタイムも向上しました。
私にとってはここが大きな転換点でした。
低強度のジョギングで走れる身体を作る→ Eペースで有酸素能力の土台とトレーニングボリュームを作る→ M・Tなど、より高い強度の刺激を加える
走力が変われば、伸ばすべき能力も変わります。
「以前効果があったトレーニングだから」という理由だけで同じことを続けるのではなく、現在の自分に足りない能力に合わせて刺激を変える必要があると実感しました。
現在はダニエルズをそのまま実践しているわけではない
現在もダニエルズのランニングフォーミュラは、私のトレーニングを考えるうえで大きな土台になっています。
ただし、書籍に掲載されているメニューをそのまま実行しているわけではありません。
ダニエルズでは、1回のトレーニングの中でEペースを軸に異なる強度を組み合わせるメニューなども紹介されています。
一方、現在の私はトレーニングの目的をできるだけ明確に分けるようにしています。
Eペースの日であればEペースを中心に行う。
Mペースの日であればMペースのトレーニングを行う。
それぞれの日に「今日は何の能力を伸ばしたいのか」を明確にして、必要な刺激を入れるという考え方です。
その中でも現在まで継続しているのが、週1回のEペースでのロングランです。
一方で、走力や目標レースによってM・T・I・Rの割合は変化させています。
今の私にとってVDOTは「現在地を確認するもの」
VDOTの使い方についても、以前とは少し変わりました。
現在の私にとってVDOTは、トレーニングメニューを決めてもらうものというより、自分の現在地を確認するための指標です。
特に参考にしているのが5000mの記録です。
5000mの走力が上がれば、それまでのマラソンペースを相対的に楽に感じられるようになります。
また、5000mの走力から考えられるマラソンのパフォーマンスと、実際のマラソンタイムを比較することで、自分の課題も見えやすくなります。
5000mの能力に対してマラソンの記録が大きく離れているのであれば、単純なスピードだけではなく、その有酸素能力を42.195kmにわたって発揮する能力に改善の余地があるのではないかと考えるわけです。
このように、現在はVDOTの数字をそのままトレーニングに当てはめるだけではなく、自分の走力を分析するための一つの材料として活用しています。
4時間58分だった自分に伝えるなら「走力に合わせて刺激を変える」
もし2014年、フルマラソン4時間58分だった自分にトレーニングについて伝えるなら、いきなり速い練習をするようには言いません。
まずは低強度で継続して走れる身体を作ること。
それができたら、Eペースを中心とした中強度のトレーニングボリュームを増やす。
そして身体がその刺激にも適応し、記録が伸びにくくなってきたら、MペースやTペースなどを使って、それまで速いと感じていたペースを楽にするための刺激を入れていく。
私自身、4時間58分から2時間46分までの過程で、ずっと同じトレーニングを続けてきたわけではありません。
現在の走力を把握し、伸ばしたい能力を決め、その能力に適した強度でトレーニングする。
10年以上ダニエルズの考え方を参考にしてきて、最も重要だと感じているのはこの部分です。
週間メニューは「今伸ばしたい能力」から考える
ダニエルズにはE・M・T・I・Rという複数のトレーニング強度がありますが、私はこれらをすべて1週間に詰め込むことはしていません。
まず、
「今の自分は何を伸ばす必要があるのか」
を考え、その能力に必要なトレーニングの比重を高めます。
例えばマラソンシーズンが近づき、マラソンペースで走る能力とトレーニングボリュームを重視する時期であれば、次のような組み方をします。

一方、マラソンペースでのトレーニング量を増やす時期とは別に、ランニングエコノミーを高め、速い動きに余裕を作ることを重視する時期もあります。
この場合はMペースの頻度を減らし、T・I・Rなど、Mペースより速い強度のトレーニングを目的に応じて取り入れます。
例えば、次のような組み方です。

ここでも、T・I・Rをすべて行うことが目的ではありません。
例えばVO₂max付近の能力を高めたいのであればIペースを選び、より速い動きやランニングエコノミーを意識するのであればRペースを選ぶなど、その時期に伸ばしたい能力によって内容を変えます。
私自身も、5000mの記録を狙う時期だからといって、速いトレーニングだけに切り替えるわけではありません。
Eペースのロングランなどで有酸素能力の土台を維持しながら、週間トレーニングの一部をMペースからT・I・Rなどの速い刺激へ移していくイメージです。
重要なのは、
「5つのトレーニングペースをすべて行うこと」ではなく、「今伸ばしたい能力に必要なトレーニングを選択すること」
です。
まとめ|ダニエルズを自分のトレーニングに活用しよう
ダニエルズのランニングフォーミュラでは、VDOTを基準に現在の走力を把握し、E・M・T・I・Rという異なる強度を目的に応じて使い分ける考え方が示されています。
重要なのは、5つのトレーニングをすべて行うことでも、設定されたメニューをただこなすことでもありません。
現在の自分にはどの能力が不足しているのかを考え、その能力を伸ばすために必要な強度とトレーニング量を選ぶことが大切です。
私自身、フルマラソン4時間58分だった頃は低強度のジョギングから始め、その後Eペースのトレーニング量を増やすことでサブ3まで記録を伸ばしました。
さらに記録が伸びにくくなってからはMペースやTペースなどの比重を高め、現在は2時間46分まで記録を伸ばしています。
10年以上ダニエルズの考え方を参考にしてきましたが、現在は書籍のメニューをそのまま実践しているわけではありません。
VDOTで現在地を確認し、
「何を鍛えたいのか」
→「そのためにどの強度が必要なのか」
→「どのくらいの量を行うのか」
という順番でトレーニングを考えています。
走力が向上すれば、必要な刺激も変わります。
ダニエルズのランニングフォーミュラは、単に「このペースで走れば速くなる」と教えてくれるものではなく、自分の走力に合わせてトレーニングを考えるための土台になる一冊だと感じています。
いつもありがとうございます!更新の励みになりますのでクリックお願い致します。







コメントを残す