今回は私が先日走った第56回防府読売マラソンで感じたLSDの効果について解説して行こうと思います。
・フルマラソンの後半でペースが落ちてしまう。
・30kmまでは余裕なのに、35kmで脚が止まる。
こんな経験はありませんか?
僕自身、同じ悩みを長く抱えていました。
しかし先日の防府読売マラソンで2時間48分を出した時、レース中に気づきがありました。
それは、失速せず粘れた理由がスピード練習ではなくLSDの影響ではなかったのか?ということです。
今回の記事では、経験と理論の両面から
・なぜLSDは後半の粘りを作るのか
・LSDはどう取り入れるのが正解か
・LSDはどんなランナーに必要なのか
をわかりやすく解説します。
後半の失速で悩んでいるランナーは、ぜひ読み進めてください。
また今回解説している内容は以下の動画でも解説しているので、耳で聞きたい方は是非ご覧になってみてください。
防府読売マラソンで感じた失速しなかった理由
最初に今回の防府読売マラソンで失速しなかった理由についてです。
今回の防府読売マラソンでは、走っていていつもと違う感覚がありました。
目標としては2時間46分辺りで走れればいいなと思いましたが、当日の気象条件としてはスタート時に雲一つない天気。
気温も予報だと18℃近かったので、体感としてはかなり高めでした。
それに加えて調整でミスったのか、調子が抜群に良かったわけでもなく、15kmあたりで「今日は攻める余裕はない」と感じていました。
レース当日のラップは以下の通りです。
しかし今回の防府読売マラソンでの走りはここから違いました。
通常であれば15㎞から我慢のレースとなるとそのままズルズルペースダウンしてしまい、最悪の場合は途中棄権する場合もあるのですが、
38㎞までそのままのペースで押して行けたのです。
これはまさかの事態です。
呼吸や疲労感はそれなりにあるのにいつもの倦怠感が襲ってこないので脚は止まらない。走りながら、「あれ?今日は落ちないぞ?」と不思議な感覚がありました。
レースが終わって振り返ったとき、真っ先に思ったのはこの粘りはインターバルでも閾値走でもなく、LSDの効果だったのではないか?ということです。
防府読売マラソンの前に走った神戸マラソンで何となくその感覚はあったのですが、防府に向けて試してみようと思い、レース本番の2週間前から意図的に入れていたのですがやはり効果アリでした。
補給についてはいつも通りの内容とタイミングで、SAMURAIGELを使用しております。
9㎞、18㎞、25㎞、35㎞でSAMURAIGELの「刀」を摂取し、
30㎞地点で「鎧」を摂取しています。
LSDがフルマラソンに必要な理由
次にLSDがフルマラソンに必要な理由についてです。
マラソンは速く走れる人が記録を出せるのではありません。
レースの後半、疲労と消耗が蓄積された状態でもペースを崩さず、同じフォームで走り続けられるかどうか。そこが結果を分けます。
速さは練習で作れますが、後半の粘りは身体の深い部分にある土台の強さで決まります。
インターバルや閾値走といったスピード系の練習は即効性があり、走力アップを感じやすい一方で、この土台の部分は別のアプローチが必要になります。
よく30km走や35km走をすれば後半耐えられると言われます。
もちろんそれらの練習にも意味はあります。
ただ、それらは低強度で長時間動き続ける能力を育てるものとは少し違います。
スピードをある程度保ちながら走るロング走では、意識しなくても糖を優先的に使ってしまいがちで、結果的に脂質代謝への刺激がLSDと比較して弱くなります。
一方でLSDは、強制的に低強度で走る時間が生まれます。
今日は朝練で90分ジョグ。
寒いのでなかなか出かけたくないですが、朝練ブレンドを飲んで出発!☕️毎年冬になると城沼には白鳥がやってきますが、
今朝走っていると、すでに何羽か飛来していました。
まだ11月なので、今年は少し早い気がします。… pic.twitter.com/IHeJpRmNOh— ヒロ|マウンテンランニング研究所 (@AC71592310) November 27, 2025
心拍を低いゾーンで保ちながら動き続けると、身体は糖だけに頼らず、脂質を使う方向に適応し始めます。
ゆっくり走らざるを得ない時間が代謝経路に刺激を入れ、脂肪をエネルギーとして使うシステムが働くようになる。この代謝の切り替わりこそ、後半の粘りに直結します。
GARMINの心拍ゾーンのグラフを見るとわかりますが、ほとんどのランナーはゾーン3〜4ばかりに偏っています。
追い込む練習が多く、低強度のゾーン2が極端に少ない人が多い。バランスよくゾーンを使って走ることが、本来の意味での耐久力づくりにつながります。
LSDは、その空白のゾーンを埋めるトレーニングです。
負荷を低く保ちながら長時間走り続けることで、身体は効率の良いフォームを探し、代謝回路を整え、無駄なく進む走りへと自然に変わっていきます。
だからこそ、LSDは「速さ」ではなく「落ちない強さ」を育てる練習なのです。
防府で感じた崩れない身体は、派手な練習の結果ではなく、この地味な積み重ねから生まれていました。
LSDで得られる4つの効果
LSDは手応えがなく、トレーニングとしての刺激が弱い分、「やって意味あるのか?」と思いやすい練習です。
しかし、実際にはフルマラソンに必要な能力の中核を担っています。速くはならないけれど、崩れなくなる。これがLSDの本質です。
ここでは、防府読売マラソンを走った経験と、トレーニング理論の両面から、LSDによって得られる具体的な変化を整理します。
・遅筋線維が活性化しフォームが整う
・代謝効率が変わり、脂質を使って走れる身体になる
・レース後半でも失速しない「燃料システム」が完成する
・結果として遅くならない身体が育つ(=省エネ走行)
以下記事で解説して行きます。
効果①遅筋線維が活性化しフォームが整う
ゆっくり走るほど、身体は反発や筋力に頼る走りではなく、効率的なフォームを選ぼうとします。
呼吸や脚に余裕がある状態だからこそ、自分の動きの癖や姿勢の乱れに気づける。LSDは速いペースでは誤魔化せてしまうフォームの粗さを浮き彫りにし、それを修正する時間になります。
ゆっくり走ろうとしているのに上下動が大きい、無駄に腕を振っている、あるいは着地のリズムが合っていない。
そういったクセに気づき、自然と「省エネフォーム」に収まっていく。
LSDは脚力ではなく、走りの質を磨き、遅筋が主役になるべき走り方へ導いてくれます。
効果②代謝効率が変わり、脂質を使って走れる身体になる
低い心拍で一定のリズムを保って走り続けることで、身体は糖ではなく脂肪を優先的に使う方向へ適応していきます。
これは「意識で切り替えるもの」ではなく、「身体がそう学習するもの」です。
脂質代謝能力が高い状態では、序盤で無駄にエネルギーを浪費せず、必要な場面まで糖を温存できます。この燃費の良さが、後半の落ちにくさ、いわゆる粘りにつながります。
効果③レース後半でも失速しない「燃料システム」が完成する
フルマラソン後半の失速は、脚力不足や精神面の問題ではありません。
原因の多くは、エネルギー供給システムの設計がレースに対応していないことにあります。人間の身体には、走るためのエネルギー源として糖(グリコーゲン)と脂肪がありますが、使える順番と優先順位が決まっています。
糖はすぐにエネルギーに変換できるため、スピードを出したり、高強度の動作を行う際に使われます。しかし貯蔵量には限界があり、体重60kg前後のランナーの場合、およそフルマラソンの距離には足りません。序盤から糖ばかり使ってしまう走り方だと、30kmあたりで残量が尽き始め、そこから身体は脂肪を使おうとします。
しかし問題は、脂肪を燃料として使う能力が普段のトレーニングで鍛えられていない場合、切り替わりがスムーズに起こらないことです。脂肪は糖より大量に蓄えられているにもかかわらず、その回路がうまく働かないため、燃料はあるのに身体が前に進まなくなる。これが典型的な「35kmから脚が止まる現象」の正体です。
ここでLSDの役割が生きます。低い強度で長時間走り続けることで、筋肉の中にあるミトコンドリアが増え、脂肪をエネルギーとして使う回路が活性化します。「脂肪を使うことに身体が慣れていく」と言った方がイメージしやすいかもしれません。LSDを積み重ねた身体は、走り始めから糖に依存せず、序盤から脂肪も並行して使い始めます。
そういえばついこの前走った防府読売マラソンでは、いつも発生する35㎞の失速がほとんどなかった。
これまでは距離走を30㎞以上入れても35㎞で身体が動かなくなることが多かったが、それがなかったのは、意外にもLSDの効果だと思う。… pic.twitter.com/WS55uB7ZFE
— ヒロ|マウンテンランニング研究所 (@AC71592310) December 14, 2025
この代謝の分担がうまくできていると、序盤で糖を消費しすぎないため、レース終盤でもまだ余力が残っています。後半になってもエネルギー供給が止まらず、フォームが崩れにくく、ペースが落ちにくい。LSDで鍛えられた身体は、強く踏ん張って走るというより、「燃費の良い状態のまま走り続けられる」のです。
つまり、後半で動けなくなるか、粘れるかの違いは、レース中に何を燃料として走っているかでほぼ決まります。
LSDは、その燃料システムをマラソン仕様に作り変えてくれる練習です。
効果④結果として遅くならない身体が育つ(=省エネ走行)
LSDが持つ最大の価値は、「速さを伸ばす」のではなく失速しない走りを作るところにあります。
インターバルや閾値走、ペース走はスピードや閾値の強化に優れていますが、どれもある程度の強度が必要です。
その反面、強度が高い練習だけでは身体が常に糖代謝に依存しやすく、レース後半に必要となる“省エネで動く力”が育ちにくいという欠点があります。
LSDでは強度が低い状態で長時間走り続けることになるため、身体は糖を使い切る前に脂肪を使う方向へと代謝システムを切り替えます。
これをミトコンドリアレベルの適応といいます。脂質を燃やしてエネルギーに変換する回路が活性化し、その回路を使う筋繊維(遅筋)が優位に働くようになります。
さらに、低強度で長時間動き続けることで、筋肉・腱・関節・姿勢保持筋にも長期持続型の負荷がかかります。
これは、短時間・高強度の練習では得られません。つまり、LSDは「筋肉の瞬発力」ではなく、同じ動きを維持し続ける耐久構造そのものを作ります。
脂質代謝の発達と、フォーム・姿勢の維持力。
この両方が揃った状態が、いわゆる走りの省エネ化です。
そしてこの省エネ化が進むと、レース後半の状況が変わります。
身体が苦しいと感じても、必要なエネルギーが枯渇せず、フォームが崩れず、脚が止まらない。
意識で頑張っているのではなく、身体が燃費の良い走りを選択している状態です。
防府での“動き続けられる感覚”は気合いや根性ではありません。
身体がその状態に適応していたからこそ起こった現象でした。
言い換えると、速さは努力で作れる。しかし、最後まで走り続けられる身体は、積み重ねでしか作れない。
LSDはその積み重ねを担う、唯一のトレーニングです。
防府読売マラソン2:48から感じたLSDの効果(実例)
今回の防府読売マラソンでは、タイム以上に「走りの質」に変化がありました。
特に35km以降、いつもなら訪れるはずの失速ポイントが来なかったことが印象的でした。
これまでのレースでは、後半になると「脚が動かなくなる」というより、身体全体にじわじわ広がる自律神経由来の倦怠感が先に来ていました。
脚はまだ動くのに、どこかスイッチが落ちたように身体の力が抜け、集中力が切れ、身体がペース維持を拒む感覚です。走力ではなく、走り続ける指令が途切れるような失速。マラソン後半で訪れる、あの独特の落ち込みでした。
しかし今回は、その感覚が現れませんでした。
今日は防府読売マラソンでした。
2時間48分33秒
PBには届きませんでしたが、この大会での自己ベストは更新できました。
例年より気温が高く、15km地点であまり調子が良くないと感じたのでペースを落とすことに。
くそあれだけ練習したのに何故だ!… pic.twitter.com/LfsjR4lke4— ヒロ|マウンテンランニング研究所 (@AC71592310) December 7, 2025
呼吸は苦しい場面こそありましたが、身体のどこにも「止まる理由」がありませんでした。脚が残っているという感覚ではなく、淡々と前へ進み続ける走りの自動化が起きていたように感じました。
フォームが崩れず、力まず、余計なエネルギーを使わず、身体が勝手に最適解を選んでいるような走り方でした。
振り返ると、その変化の背景には、レース2週間前から意識的に取り入れていたLSDがあります。
ゆっくり走るだけの練習ですが、強度の高いトレーニングでは得られない、「神経系の余裕」や「代謝の安定」が積み上がっていたのだと感じます。
脚力ではなく、走り続ける設計そのものが変わった結果だと思います。
レース後半の粘りは気持ちではなく、身体が最後まで働き続けられる準備ができているかどうか。
防府の走りは、LSDの効果を「実感」から「確信」に変えるレースでした。
こんなランナーこそLSDを入れるべき
LSDは誰にでも必要な練習ではありません。しかし、フルマラソンに向き合っているランナー、特に練習量が増えてきた段階の人にとっては、走りを根本から変えてくれるきっかけになります。
もし、次のような走りの傾向があるなら、LSDが必要なサインです。
・30km以降にペースを維持できない
・後半になるほどフォームが崩れてくる
・スピード練習はできているのにフルの結果につながらない
・低心拍ゾーンのジョグが極端に少ない
これらは単なるスタミナ不足ではなく、身体がフルマラソンで必要となる代謝のバランスや、低強度で動き続ける神経系の能力がまだ育っていない状態です。
スピードや筋力があるのに最後粘れないランナーは、この傾向がとても多いです。
今日は、朝昼晩の3部練。
朝と夜はじっくり走り、昼休みにキツ目の練習。
夜や朝だとどうしても高い負荷のトレーニングは避けちゃうメンタルの弱さ。
というわけで、今日は4000キロカロリーちょい消費。
体重もいい感じに落ちてきてうれしい。 pic.twitter.com/cJHOsls7RA
— ヒロ|マウンテンランニング研究所 (@AC71592310) November 27, 2025
LSDは、その偏りを整えてくれます。ゆっくり、低強度で動き続けることで、身体は省エネで走る方法を学び、走りの燃料システムがフルマラソン仕様へと作り替えられていきます。
派手な変化はありませんが、積み重ねるほど、走りに深い余裕が生まれます。練習の中では気づかなくても、レース後半、これまでなら止まりそうだったところで脚がまだ動く。その瞬間が訪れたとき、LSDの意味がはっきりと分かります。
もし今、フルマラソンの後半に課題を感じているなら、LSDは確実に走りを変えてくれる練習です。伸びしろが残っている証拠でもあります。
LSDの正しいやり方と継続のポイント
次にLSDの正しいやり方と継続のポイントです。
LSDは「ゆっくり長く走るだけの練習」のように見えますが、ただペースを落として距離を踏むだけでは十分な効果が得られません。意識するべき点を外してしまうと、疲労抜きのジョグや、漫然と長く走っただけの時間になってしまいます。
まず大切なのはペースではなく心拍です。速さで調整するのではなく、身体の負荷を基準に走ることが重要になります。私の場合はおよそ100bpm前後で走ります。
人によって心拍数は異なりますが、最大心拍の60〜70%程度が目安になります。この領域で走ることで、脂質代謝が働きやすくなり、LSDの効果が出てきます。
次に意識したいのは時間で、最低でも90分、できれば120〜150分は走りたいところです。
60分前後で終わってしまうLSDは、身体が脂質を使い始める前に終わってしまうことが多く、適応が進みません。
ゆっくり走っているのに身体が温まり、呼吸も脚も乱れず、走りが淡々と続く感覚を維持できているかが判断の基準になります。
できれば朝に取り入れることをおすすめします。朝は血糖値が低く、脂質代謝が働きやすい状態からスタートできるため、LSDの狙いと非常に相性の良い時間帯です。
最初のうちは退屈に感じるかもしれません。追い込む練習やスピードトレーニングに比べると、走っている実感や達成感が少なく感じることもあります。それでも継続していくと、少しずつ変化が現れてきます。脚の疲れ方、呼吸の余裕、フォームの安定感、走りのリズム。そのどれもが静かに変わり始め、あるタイミングで「崩れない走り」に切り替わります。
LSDは即効性のある練習ではありませんが、積み重ねるほど確実に結果に現れます。後半でも走り続けられる身体を作るために、淡々と積み上げていくことが大切です。
まとめ|失速しない脚はLSDで作れる
フルマラソンの課題は、速く走れるかどうかではなく、どれだけ落とさずに走り続けられるかです。序盤の余裕やスピードよりも、後半の粘りが結果を決めます。そして、その粘りは努力や根性ではなく、身体がどう準備されているかで決まります。
LSDは派手な練習ではありませんが、走りの根本を支える土台をつくります。代謝のバランスが整い、フォームが乱れず、無駄な力みがなくなる。そうして積み重ねられた走りが、レース後半に余裕として現れます。
今回の防府読売マラソンでは、まさにその変化を身体で感じました。いつもなら止まりかける35km以降でも、大きく崩れることなく走り続けられたことは、LSDが確かに効いていた証拠でした。
速さは練習で作れます。しかし、最後まで走り続けられる身体は、積み重ねでしか作れません。
すぐに結果が出る練習ではありませんが、続けるほど必ず走りが変わります。フルマラソンの後半に課題を抱えているなら、一度LSDに向き合ってみてください。
その効果は、必ず本番でわかります。
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